大阪地方裁判所 平成8年(ワ)6206号 判決 1997年5月09日
原告
畑本仁德
ほか一名
被告
宝島造形有限会社
ほか一名
主文
一 被告らは原告畑本仁徳に対し、連帯して金一三六九万二〇三六円及び内金一二四九万二〇三六円に対する平成七年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは原告畑本ケイ子に対し、連帯して金一三六九万二〇三六円及び内金一二四九万二〇三六円に対する平成七年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは原告畑本仁徳に対し、連帯して金二九五六万二一一〇円及び内金二八〇六万二一一〇円に対する平成七年一二月一三日(事故の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは原告畑本ケイ子に対し、連帯して金二九五六万二一一〇円及び内金二八〇六万二一一〇円に対する平成七年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、自動二輸車に乗車中、普通貨物自動車と衝突して死亡した者の遺族が、普通貨物自動車の運転手に対し民法七〇九条、保有者に対し自動車損害賠償保障法三条に基づいて損害の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実(以下( )内は認定に供した主たる証拠を示す)
1 事故の発生(争いがない)
(一) 日時 平成七年一二月一二日午前九時三二分頃
(二) 場所 大阪府豊中市清風荘一丁目一番八号先路上(大阪中央環状線)
(三) 関係車両 被告安本運転の普通貨物自動車(大阪四七た四一七二号、以下「被告車」という)
畑本章運転の自動二輪車(神戸み二八五号、以下「原告車」という)
(四) 事故態様 原告車と被告車が衝突し、原告車が転倒した(以下「本件事故」という)。
2 畑本章の死亡(争いがない)
畑本章(以下単に「章」という)は、本件事故によつて右肺破裂、全身打撲の傷害を負い、同日死亡した。
3 原告らの地位(甲一、二)
原告畑本仁徳は章の父、原告畑本ケイ子は母である。
4 被告らの責任原因(争いがない)
(一) 被告会社は被告車の保有者であり、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者に該当する。
(二) 被告安本は車線変更に当たつて進行車両の存在及び動静に十分注意を払わず、進行した過失がある。
5 損害の填補(争いがない)
原告らは自賠責保険金三〇〇〇万円を受取つている。
二 争点
1 過失相殺
(原告らの主張の要旨)
被告安本は被告車を側道から環状線の本線に進入させ、更に先の脇道に右折進入すべく、交通量の極めて多い環状線を斜走したもので、本件事故は被告安本の右のような無謀運転に起因する。
(被告らの主張の要旨)
章は、被告車に対し充分な注意を払わなかつたもので一〇パーセント程度の過失相殺がなされるべきである。
2 損害額全般
(原告らの主張)
(一) 逸失利益 六三一二万四二二一円
章は事故当時、大阪経済大学一年生の健康な男子で、本件事故に遭わなければ、平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・四年生大学卒、男子労働者平均年収六七四万〇八〇〇円の年収を、右大学卒業後得られたはずである。したがつて、生活費割合を五割と見て、逸失利益を算定すると右金額となる。
計算式 六七四万〇八〇〇円×(一-〇・五)×(二二・二九三-三・五六四)=六三一二万四二二一円
(二) 死亡慰藉料 二〇〇〇万円
内訳
固有分 各原告につき 一〇〇〇万円
(三) 葬儀関係、仏壇墓石費用 三〇〇万円
よつて、各原告は(一)ないし(三)の合計八六一二万四二二一円から損害填補額三〇〇〇万円を差し引いた五六一二万四二二一円を二分した二八〇六万二一一〇円及び(四)相当弁護士費用一五〇万円の総計二九五六万二一一〇円及び弁護士費用を除く二八〇六万二一一〇円に対する本件事故日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める。
第三争点に対する判断
一 争点1(過失相殺)について
1 認定事実
証拠(乙一の1ないし10、検甲一ないし四)及び前記争いのない事実を総合すると次の各事実を認めることができる。
(一) 本件事故は、別紙図面のとおり、広い中央分離帯を有する片側三車線で車道の幅員が片側だけで約一〇メートルの(以下のメートル表示はいずれも約である)、市街地を東西に延びる道路(以下「第一道路」という)とこれに西北西から合流する幅員五・八メートルの道路(以下「第二道路」という)によつてできた合流地点付近において発生したものである。合流地点から東五〇メートル付近には幅員六・一メートルの道路(以下「第三道路」という)が第一道路に南から突き当たつている。第二道路が平坦地にあるのに対し、第一道路は合流地点から西に向かい登り勾配となつており、その分第二道路から第一道路への見通し状況は悪い。
第一道路は事故当日の午前一〇時四〇分から行われた実況見分時において一分間に五九台という交通頻繁な道路であり、制限速度は時速六〇キロメートルである。
(二) 被告安本は、第二道路から第一道路に合流したうえ更に第三道路に進入しようと考え、時速約四〇キロメートルで第二道路を東進してきたが、別紙図面<2>(以下符号だけで示す)において、右後方から進行して来るの車両の集団を認め減速し、<3>付近まで進行した際、右車両集団がを通過して行くのを認め、<4>において右後方を一瞥しただけで、時速三〇ないし四〇キロメートルに加速して<5>まで進行したところ、第一道路を進行してきた<ア>の原告車に衝突した(衝突地点は<×>)。衝突後、被告車は<6>に停止し、章は<イ>に、原告車は<ウ>にそれぞれ転倒した。被告安本は、右衝突時点まで原告車の存在に気づいていない。
2 判断
1の各認定事実に照らし考えるに、本件事故は、側道から本線に進入したうえ、本道の走行車両に注意を払わず、交通頻繁な道路を、短距離の間に三車線の車線変更をなし、右折を試みようとした被告安本の過失によるところが大である。他方、章は本線を直進走行していたものであつて、側道から本線への合流直後に、交通頻繁な道路を斜め横断してくるような無謀な車両の存在を予期してこれに対する注意を払わなければならない義務は見いだしがたく、章には過失は認められない。
二 争点2(損害額全般)について
1 逸失利益 三三七八万四〇七二円(主張六三一二万四二二一円)
証拠(甲三、一一ないし一七、原告畑本ケイ子本人)によれば、章(昭和四九年七月三日生、当時二一歳)は、事故当時、大阪経済大学一年生で健康な独身男性であつたことが認められる。
そこで、章は、本件事故に遭わなければ、平成一一年三月に大学を卒業し、同年四月から少なくとも平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・大学卒、男子労働者二一歳から二四歳までの平均年収三二四万八〇〇〇円を、就労可能年齢である六七歳まで得られたはずである。よつて、生活費割合を五割と見て、ホフマン方式により逸失利益の事故時の現価を算定すると右金額が求められる。
計算式 三二四万八〇〇〇円×(一-〇・五)×(二三・五三四-二・七三一)=三三七八万四〇七二円
原告らは、基礎収入を平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・四年生大学卒、男子労働者平均年収とすることを主張しているが、逸失利益については、章が将来得られるであろう蓋然性の最も高い収入を基準として控えめに算定すべきであるから、原告ら主張の算定方式は採用しない。
2 慰謝料 二〇〇〇万円(主張同額)
章の生活状況、年齢の他、本件事故態様等本件審理に顕れた一切の事情を考慮して、慰謝料額は各原告について一〇〇〇万円を認めるのが相当である。
3 葬儀関係費用 一二〇万円(主張三〇〇万円)
本件事故と相当因果関係がある葬儀関係費用は一二〇万円とするのが相当であり、弁論の全趣旨により葬儀費用は各原告がその相続分に応じて負担したものと認める。
第四賠償額の算定
一 損害総額
第三の二の1ないし3の合計は五四九八万四〇七二円である。
二 損害の填補
一の金額から前記(第二の一の5)損害填補額三〇〇〇万円を差し引くと二四九八万四〇七二円となる。
三 各原告の賠償額
1 二の金額に各原告の相続分である二分の一を乗じると、一二四九万二〇三六円となる。
2 右金額、事案の難易、請求額その他諸般の事情を考慮すると、原告らが訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告らが負担すべき金額は各原告につき一二〇万円と認められる。
3 よつて、各原告の被告らに対する請求は、一三六九万二〇三六円及び弁護士費用を除く一二四九万二〇三六円に対する本件事故日の翌日である平成七年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 樋口英明)